「夢落ち」
ベンジャミン
ある夜の夢の中
ぼくは一つの素晴らしい言葉を吹いた
それは宝石にたとえるならダイアモンドのようで
気分にたとえるならすがすがしい朝の目覚めで
まだ眠ってるどこかが新しく生まれたようだった
という夢をみた
なぜならばぼくはその言葉を思い出せない
※
記憶はそうやって刻々と風化してしてゆく
たとえば風化ということばを風花と書いて美しく感じる
そんな錯覚のようにきれいに忘れてしまう
そしてときおり焦りにも似た感覚で
ぼくは夢の中の自分の鼓動の早さに驚いたりする
忘れてしまうことの淋しさにしがみつくように
※
ぼくはいつでも生きていたいと思う
もちろんそう思うようになれるまでに費やした時間は
もうすでに風化してしまっているのだけれど
たとえばそんな夢落ちの一片ものがさずに
寝ている間の無意識という意識の中でさえ
生きものにそなわった本能という代用語を用いてもいい
それがまったくぼくの妄想にすぎないとしても
夢落ちするほんの一瞬に手をのばせるくらい
生きるということにしがみついていたい