「夢落ち」
ベンジャミン

ある夜の夢の中
ぼくは一つの素晴らしい言葉を吹いた

それは宝石にたとえるならダイアモンドのようで
気分にたとえるならすがすがしい朝の目覚めで
まだ眠ってるどこかが新しく生まれたようだった

という夢をみた
なぜならばぼくはその言葉を思い出せない


   ※


記憶はそうやって刻々と風化してしてゆく
たとえば風化ということばを風花と書いて美しく感じる
そんな錯覚のようにきれいに忘れてしまう

そしてときおり焦りにも似た感覚で
ぼくは夢の中の自分の鼓動の早さに驚いたりする

忘れてしまうことの淋しさにしがみつくように


   ※


ぼくはいつでも生きていたいと思う
もちろんそう思うようになれるまでに費やした時間は
もうすでに風化してしまっているのだけれど

たとえばそんな夢落ちの一片ものがさずに
寝ている間の無意識という意識の中でさえ

生きものにそなわった本能という代用語を用いてもいい
それがまったくぼくの妄想にすぎないとしても

夢落ちするほんの一瞬に手をのばせるくらい
生きるということにしがみついていたい

  


自由詩 「夢落ち」 Copyright ベンジャミン 2012-05-21 22:40:52
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