あざみ嬢の物語
田園

あざみ嬢の物語


「老人たちは言った。」


あざみ嬢あざみ嬢あなたの刺は危険。この麻を被っていきなさい。

あざみ嬢あざみ嬢あなたの刺は危険。このフードを被っていきなさい。

あざみ嬢あざみ嬢あなたの刺は危険。この鎧を被っていきなさい。


あざみ嬢は言われるがままに体をちぢこめた。

「わたしはわたしであってはならないのだわ」

しぜんとそう思うようになっていた。


ある時、旅の途中のツバメが、

あざみ嬢を見てやってきた。

「やあ、こんにちわ。でも君は男かい?女かい?鎧で顔が見えないよ。」

「ああツバメさん、わたしは女よ。」

「だったらそんな鎧を着ていてはならない。女の人は輝かなきゃ。」

「でもわたしはあざみ嬢。刺々しい外見は、人を傷つけるの。みんな言うの。あの子に近づいちゃだめよって。」

「もったいない。あざみほど深い紫をきらめかす花はないというのに。

 そうだ。僕と友達になろう。だからその着込んだ無粋なものは脱いでおくれ。」

「ツバメさんを傷つけるわ。」

「そんなことない。君はきれいなんだ。」

あざみ嬢はしばらく考え込んで、鎧を脱いでみた。

そしてツバメの顔色をうかがってフード、麻を脱いだ。

「ほら、やはり君はきれいだ。君はわらっていておくれ。ここじゃ迫害されるというなら、僕の背中にお乗り。一緒に旅をしよう。」

あざみ嬢の心は高鳴った。

「わたしでいいの?」

「むろんさ!」

あざみ嬢は遠くで見える老人たちに気づかれないように、根を出し、体全部でツバメに乗った。

「痛くないの?」

「ぜんぜん!君は怖くないかい?」

そこであざみ嬢はやっと笑った。

「ぜんぜん!」


あざみ嬢あざみ嬢あなたの花は艶やか。したたる水を含んで。

あざみ嬢あざみ嬢あなたの花はしとやか。けして派手ではないがりんと立っている。

あざみ嬢あざみ嬢あなたの花は麗しい。たおやかに暮らす知恵を含んでいる。


あざみ嬢あざみ嬢きみはもう、解き放たれた、老獪な罠から。

幸せを!



自由詩 あざみ嬢の物語 Copyright 田園 2012-05-18 14:47:12
notebook Home 戻る  過去 未来