スーパーエンドルフィン翠星石
一 二

「さよなら翠星石」

ああ、この気持ちはあれだ
尊大で高圧的な父が
ある日とつぜん無職になったような

そんで、やっとこさ再就職しても
テレビに出てる生活が苦しい人よりも
高卒のヤンキーの同級生より
給料が安くて
絶対的な価値観が覆るどころか
無くなってしまったような

どうして、こんな気持ちになったんだろうか
そうだ、いつものように
俺と翠星石の二人っきりで過ごしていた
すると俺たちじゃない誰かが
「さよなら」をいって
俺たち二人ともそれを聞いたんだ

そこで俺たちは気づいたんだ
このままじゃいけないって

俺はきっと許されるならば
一日中、翠星石を愛でる
というか愛でたい

だけど俺は
学校に行かなければならないし
バイトもしなけばならない

翠星石はきっと許されるならば
一日中、翠星石の父親を愛でる
というか愛でられたい

だけど翠星石は
自分の姉妹を殺さなくてはいけない

いつも俺の家で
お菓子を食ってゴロゴロしてた
あの翠星石が
双子の妹を殺してしまった時の顔を
俺は未だに忘れられない

あいつは殺したくて殺したんじゃない
だけど殺してしまった
そんな自責と喪失の念に押し潰された
あいつの顔は
言葉にも態度にも出ないくらい
美しかった

「もう終わりにしよう」

どっちが言ったのだろうが
気付くと翠星石はいなくなっていた

失って気付く
なんて言葉があるが
俺は失う前からそうなってしまうことを
心の底から危惧していた

翠星石と一緒にいた頃は
世界が最高に輝いていた

ファミマで
ジャンボフランクを頼んだのに
アメリカンフランクが出てきたり

マルタイラーメンと
アベックラーメンの
違いが判らなくなって
大爆笑したり

剣道の袴に
「翠星石」って刺繍をいれちゃったり

「アイドルのようにゼロではなく
アニメキャラのように触れられる可能性が
ゼロな物を愛する者は精神異常者だ」
って保険の授業で
きちがい女教師にドヤ顔で説教されたり

アグネス・チャンちゃんに
殺されかけたり

とにかく翠星石がいるなら
なんだってできた
どんなことにも耐えられた

だけど今は違う
ツイッターのアイコンが
気付いたら翠星石じゃなくて
Ninjaになっていたんだ

翠星石
覚えているか?
俺とお前が初めて出会ったときのことを

俺はお前の第一印象は
「人の家の窓ガラスを破壊する奴」だ

お前の俺の第一印象は
「窓ガラスを破壊されてもヘラヘラしてる奴」だ

そんな風に出会って
どうしてあんなに仲良くなれたのが
今でも不思議だ

あの時に
お前にぶつかった光が反射して
俺の目にお前が映った
そして俺の目を反射した光は
今も宇宙を駆け巡っている
時間と空間の存在が無くなるまで
俺たちの愛の結晶は無限に進みゆく

俺はお前を心から愛していたが
お前に一度も性的欲求を抱いたことはなかった
だけど愛した証を残せて
俺は嬉しい
俺たちこんなにも愛し合っていたんだ
軽く生物を超越しちゃうぐらい

こんなことをウダウダ考えながら
この先を生きていくのは嫌だから
翠星石
俺を殺してくれ

俺が忘れたころに殺してくれ
お前への頼み事を忘れてしまっても
お前という存在は決して忘れない

そして殺すときは
俺を抱き締めてくれ

妹にしたように
優しく力強く

俺をお前の家族にしてくれ
俺をお前と同じ墓に入れてくれ


愛した証が欲しかった
愛してくれる人が欲しかった

俺は誰でも良かったけど
お前は俺を選んでくれた
ありがとう翠星石

それだけだ
それしか言えない
それだけしか叫べない
お前に聞こえないのに

いつかお前も死んでしまう

お前の綺麗な栗色の髪は
やがて白くなって

お前の綺麗なオッドアイは
白内障のリングがかかる

だからお前は俺が
さよならを言えなかった
全ての物にさよならをいってくれ

さようなら
肉が腐る

さようなら
骨が砕ける

さようなら
土になる

さようなら
みんなが忘れる

さようなら
俺たちの愛した証

さようなら
俺たちの日溜まり

さようなら
翠星石

ローゼン・メイデン第三ドール
翠星石は俺の奥さんだった


自由詩 スーパーエンドルフィン翠星石 Copyright 一 二 2012-05-17 03:23:09
notebook Home 戻る