Strange Fruit
HAL
運命って残酷だよな
俺のダチは雨上がりに
バイクに乗っててさ
高速の小さな水溜まりに
スリップしてバイクはフェンスに
激突してダチは投げ出されて
下の道路に飛ばされて
丁度来たトラックに轢かれてさ
そのままあの世に逝っちまった
棺桶の中の遺体なんて
見られたもんじゃなかったぜ
男前だったのに顔半分はなかった
俺の保護観察のオッサンなんて
いいひとだったけど
それが仇になっちまってさ
一枚の書類に名前と印鑑を捺して
莫大な金額の保証人になってな
保証人になってやった奴は
自己破産してオッサンが
その借金を返すことになっちまった
それである日の夜に
家を出て行方不明になっちまって
発見されたのは富士の裾野に広がる
林の中で奇妙な果実になっちまった
でもその保証人を頼んできた奴は
免責とかが認められて
また数年後にIT事業を興して
いまじゃ六本木ヒルズを本社にして
二子玉川に豪邸を建てて
朝は黒塗りの運転手付きのレクサスで重役出勤
夜は毎日 銀座のクラブのお得意さんだってよ
おかしいと想わないかいアンタ
どこか間違ってるとは感じないか
それともそれは運命だったとでも言うのかい
俺の前で一度でもそれを言ってみろ
二度と喋れない様にその口をアーミーナイフで
切り裂いてから心臓にブスリと突き刺してやるぜ
もう怖くはないんだよ刑務所なんてな
三食付きで優遇待遇されるだけだからな
ちょっとつまらない内職みたいな仕事をしてりゃ
夜の自由時間にはTVも観せてくれるぜ
規則正しい生活も送れて
ムショからシャバに出て来る時にゃ
健康そのもののからだでカムバックだ
でもTVで観ただけに過ぎないけど
一流大学を出ても就職なんて
なかなかできないらしいな
そいつらはフリーターになって
海苔をおかずに一日一食で
四畳半一間のアパートで
暮らしてると云う番組を観たよ
小さい頃から勉強三昧の日々を送って
受験戦争には勝ったのにな
行き着く先はそんな暮らしかよ
俺みたいにその辺のサラリーマンを
脅して殴って金をぶんどりゃ
雨露をしのげて朝昼晩の飯にありつける
ムショ暮らしをできるのにな
な〜に人殺しさえしなきゃ
3年か4年で出てこれるぜ
でもそんな奴は根性って奴は
学んで来なかっただろうからな
脅すより脅される側に
きっとなっちまうんだろうよ
不良で頭の悪い俺には分からない
いったいいつからこの世の中は
ここまでイカレちまったのかがな
※作者より
奇妙な果実とはJAZZシンガーであるビリー・ホリデイの名唱で知られている有名な人種差別を告発する楽曲。アメリカ南部に於いて白人によってリンチを受け首を縛られ、木に吊るされた黒人の死体がぶら下がった様を意味します。原曲の正確なタイトルは《Strange Fruit》。作詞・作曲は諸説ありますがルイス・アレンであると云う説が一般的。非常にを越えて形容詞の見つからない暗く重い歌ですが、興味ある方はお聴きになる価値は充分にあります。