もうひとつの夫婦の肖像画
石川敬大
《鯉がたべたい》
と、言ってあまえ
まったく隙だらけ
そのくせ自意識は役者なみの
あのサムライ
かれは
前世のぼく
なのじゃないかとフッとおもう
おんなのため
おんなとふたりで店をやるため
と、見栄はって恰好つけて
剣を習い
新撰組に入隊
あげくのはてには斬り殺されてしまう
あわれなおとこ
《ソノ》
最期におんなの名をひと声つぶやき
いっしょにとるはずだった
夕餉の
鯉料理を
おもいうかべながら静かに果ててゆく
あれはまったく
ブザマこのうえない
ぼくの姿にちがいない
*
血まみれの夕陽が宵闇に置きかわるころ
夕餉をおえた
ぼくら
シンクの前で
現代の《ソノ》は水をつかう
次の世も
またその次の世も
愛するもののためと朝餉の支度をするだろう
シンクの前で
現在の≪ソノ≫は水をつかう