すずらんのこと
はるな


ひとりで新幹線に乗るときの駅弁は寿司ときめている。新大阪からは巻き寿司、品川からは握り。東京からはめったに乗らない。缶ビールを買って、のみきる前に満腹になってしまう。

実家の庭に増えているすずらん。座り込む子どものように咲く。すこし離れて、祖母にと株分けされた一輪がきわだって白くうずくまっていた。
来月結婚式を挙げる。入籍してから一年が経つ日だ。打ち合わせが重ねられ、準備がだんだんと進んでいくのは、窮屈なことだ。それはなんだか入学式や卒業式と似ている。実感もないのに、まわりだけがベルトコンベアみたいにながれて。わたしだけが置いていかれているのか、まわりだけが足早に流れているのか、でもそれはどっちも同じようなことだと気付かされながら。
分けられたすずらんをいっそう可愛らしく思うのは、たぶんそんな時期のせいだろう。

まだ場所はきまっていないが、夫の仕事の転勤が決まった。夏には、またちがう土地に住むことになるだろう。ここには一年と3ヶ月ほど住んだ。おもいのほか早い異動だと、申し訳なさそうに夫は言うけれど、すこしほっとしていた。あたらしいところへ行けば、あたらしい気持ちでいられる。
すずらん。ひとりで乗る新幹線。
大人になったら、ひねくれて一人で遊んでいても、誰も文句を言わなくなった。
それはらくちんだし、せいせいすることだ。
いっせいに上を向いて開くハナミズキの足元で、すこしだけうしろめたい気持ちになったとしても。


散文(批評随筆小説等) すずらんのこと Copyright はるな 2012-05-07 11:54:08
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