瞳に映る記憶
長押 新

彼らは死に慣れてしまった。だが
校庭で炊いた焚火に身体を当て、燃え上がる
湿った潮風が鼻を擽る中で心が揺れた時、死そのものが、
何故生きているのか問い掛けてくる。彼らは死に祈りを捧げた、

そして恐れから既に冷え切った死を焚火で温め、
服を乾かしてやった、たえず
髪を梳くように優しい手つきで。一人が涙を流し
子供たちが寒いと震える。

彼らはすべてを置き去りにした。もう一人の女も
優しい手つきをしていた、円を描くように
死は大きな水たまりを作り上げた、何もかも吸いつくし
ぞっとするような色をして、乾きたがっているのが
そこに居た誰にでも一目でわかった。

そして彼らは証明した。死が何を覗きこもうとしているのかを
閉じることのない瞼が、彼らをただ見詰めていることを。
彼らは跪く。冷たい廊下、静まりかえることのない夜に
ねじれたままの死を横たえながら、

どうか私たちを恨みませんようにと祈っていた、
彼らの体が冷たく凍るまで。
小さな雪がさらに細かく降りつける夜は
容赦なく彼らの体の中を湿らせた。そして死はまだどこかに隠れている
固まり、目を開いたまま泥に塗れ、全てを掴んでいる。




自由詩 瞳に映る記憶 Copyright 長押 新 2012-05-04 19:03:21
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