砂浜の奥で
長押 新



かいすいのなかのつぶは
ひとつとしておぼれてはいない



小さな子供が、星の矢に射られ、
浜辺の町の大人が、
空を向いて祈り始めた、

(その間にも子供の胸は砕かれ、
背中の方へ心臓を押し込まれる、
しまいには反対側から
心臓の音が聞こえる、)


「もし、神様がいたら?」
「神?GOD?GOTT?□□□? お祈りには行かない」
「なんで?」
「体を取られたくないから」


浜辺の町では、夏にも草木は黄色のまま、海にも雲が架かっている。子供たちは、靴を履いて転がっている。裸足のまま、砂浜を歩いている。わたしの足は、子供たちのそれより深く、沈み、熱は、体を登り、登りきると逃げていく。砂浜の奥では、粗末な隕石が、じわじわと冷えて、胎内にいる赤ん坊の形をし始める。体重の軽い子供の蹴る、砂浜、の、中で、息をする、沈静。
夜、降り続ける隕石の中で、呼吸が焼かれていく。喉が焼けるくらい大きな隕石。隕石は大きな声で泣き、耳を塞ぐと、やっと音が聞こえる、耳に手を当てて、大人たちはずっと聴き続ける、魂の、嗚咽。

裸足で歩く子供の、背中を、押して、風が、一人また一人とさらう。頭から、底に沈む。
耳を塞ぎながら、見詰めている。

ここは、黄色い、砂浜、
海水に浸り、茶色くなる顔が、
海底に刺さり、
それは砂、
或いは、誰かの、
子供、
そして、
海水から塩が抜け、
雨が、砂の間を流れて、
ゆっくりと、
砂浜に舞い戻ると、
旅は終わり処女に戻れる、
砂は、たった一粒の砂になり、
それからまた、砂浜になっていく、
そして、海もいつの間にか、
砂浜の上に現れて、
すべての、
人々の母や父が、
波の中から、

便りと、打ち上げられる、
やがて、崩れていく体を、
手紙にして、
波のなか、
あの赤ん坊の形をした、
隕石が削られて、
文字をつくっていく、
濡れた手紙の、文字、
それは砂
そうして祈りが続いていく




自由詩 砂浜の奥で Copyright 長押 新 2012-05-04 11:11:18
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