禁じられた遊びのように
天野茂典

  少年は貧しかった
  少年は淋しかった
  少年は孤独だった
  父も母もエイズだった
  少年に稼ぎはなかった
  食べるものも
  着るものもなかった
  少年に運命などという言葉はない
  少年は耐えるだけだった
  母親がときどき食べ物を持ってきた
  少年はむさぼるように食べた
  少年はある日油を少量手に入れることができた
  誰にも言わなかった
  少年は寡黙だ
  少年は乾燥した樹木の下に座っていた
  少年は目ざとく見つけた
  蠍だ
  アフリカの蠍は猛毒を持っている
  刺されたらおわりだ
  少年はすばやかった
  木のまたで挟み付けると
  尾をにぎった
  少年はすぐに持参した油を
  全身にかけた
  蠍が暴れた
  少年は父のライターを取り出すと
  蠍にむかって火をつけた
  蠍は身悶えながら焦げていった
  ガソリンの匂いと蠍の匂いが混ざって
  複雑な匂いをだした
  もえる蠍
  もえる蠍
  禁じられた遊びのように
  孤独な少年は
  自分のパフォーマンスを眺めていた


  砂漠の片隅の点にもならないような
  樹木の下で
  少年は快活になった



           2004・12,05


未詩・独白 禁じられた遊びのように Copyright 天野茂典 2004-12-05 20:10:09
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