命の呟き
HAL
ある日からぼくは命が呟くのを
耳ではなく心で直接聴ける様になった
命は言う ぼくが挫けるときに
誰だっても転けも挫けもするが
まだまだ俺もお前も大丈夫だからなと
命は言う ぼくが愚かな行為をするときに
好いかよく憶えておけよ
俺の許しも受けずに勝手に俺を殺すなと
命は言う ぼくが調子に乗っているときに
偉そうにしやがって俺がいるから
お前は生きてることを忘れるなと
命は言う ぼくが電車で席に坐っているときに
俺には見えるがお前に見えないか
お前のすぐ側に立っているお年寄りがいるのを
命は言う ぼくが戦うことに決めたときに
間違っても俺を惜しむなよ
戦うときには俺を賭して戦えと
命は言う ぼくが誰かに憎悪を抱いたときに
これも憶えておけどんな事情があっても
お前が正しくとも俺の同胞を殺めるなと
だけど命は言うだろうか
長い付き合いだったが残念なことに
もうすぐ俺に終わりが来ると
いいや命は言わないだろう
『さらば』とは絶対に言わずに
俺の道連れにして悪いなと言うだろうと
その時やっとぼくは気がつく
命とはぼくの良心だってことが
その時きっと命は爆笑しながら言うだろう
気がつくのがお前はいつも遅いと