黄金の花嫁
ただのみきや

朝日はね
特に良く晴れた日の朝日はね
そりゃあもう別嬪さんで
たったひとりで見ていると
もったいないような
独り占めできてうれしいような
不思議だね おれは
新しい朝と結婚したくなっちまうんだ

深い淵からね
閉ざされたまま浮かんできてさ
ほんの少しだけ扉が開くの
まるでビーナスの貝みたいにね
するとね 濃紺を下から破るように黄金の矢がぱっと放たれて
生まれてくるんだよ 夜の卵から
花嫁がさ

すると海原に黄金の道がゆらゆらと現れてさ
焔と群青の対極に広がる
なめらかなグラデーションを纏った朝とおれは
腕を組んでさ 渡って行くんだよ
松明みたいに燃え上がりながら
さらし者になってね 現世に灰も残しはしないんだ
道の果てにある
時が永遠へと流れ落ちて行く 無限との境界
聖なる祭壇の下へとね


美しい朝焼けよ おれの朝日よ
この朝が明けきらぬ間に おまえは燃え落ちろ
汚れなき朝のままに死んで行け
おれを道連れにしてかまわないから
永久凍土から掘り起こした
死んだ犬にすぎないが
残りの情熱の全てを血のように注ぐから

燃え尽きろ

燃え尽きろ

燃え尽きろ

燃え尽きて


犬に曳かれた老人が
壊れた荷車みたいに通り過ぎて行く

白々と唯物の街が起き上がり
ニュースを流し込んでいる

いつもの今日が無表情に
髪を撫でつけている

取り残された男が一人
空き缶のように風に転がって

 


自由詩 黄金の花嫁 Copyright ただのみきや 2012-04-22 23:28:10
notebook Home 戻る