ビリー・ザ・キッドに贈る
まーつん
男が立ちはだかった時
お前に立ちはだかった時
そいつは もう死んでいた
お前が生き続ける限り
それは不変の法則だった
ビリー
お前は撃った
沈黙を破るため
そして人はお前を 英雄と呼んだ
ビリー
唯の人殺しだ お前は
だが それを罪と呼ぶ以外にないのなら
世界は今より ずっと単純な場所であり続けたろう
山積みにした死体の上で
のんびりと胡坐をかくお前
噛み煙草を味わう口元の上には
満足げな双眸が 二枚の銀貨のように輝いて
己の技に酔いしれながら 砂埃の舞う無人の街を見渡している
風の唸りの向こうから響いてくる 死者の慟哭に聞き入りながら
ビリー
何者なんだ お前は
憎しみの 奴隷に過ぎなかったのか
不安に 駆られていただけか
場違いなパーティーから 逃げ出すために
邪魔な命を押しのけていたに すぎないのか
ビリー
お前は誰よりも早かった
その子供のように無垢な手に
忽然と現れる六連発
それは唯一の友であり
お前の心を語り得るのは その銃声だけだった
ビリー
別の世界に生きていたお前
己を中心に回る世界に
だがその歯車は軋み出し
やがて時計は 歩みを止めた
ビリー
お前が死んで良かった
若くして この世から退場してくれて
ああ 良かったと 心から思いはするが
それでも
顔も知らず 会ったこともないお前に
懐かしさを 感じずにはいられない
なぜならお前は 子供だから
誰の胸の内にも 棲んでいる子供
我を通し 地団太を踏み
欲しいものをつかむまで 手を伸ばすのをやめない
そう 結局のところ
ガキだったのさ お前は
だけど ビリー
俺にとって お前は
みじめさとは無縁で すがすがしくさえあり
開拓の神話の中に生き続ける セピア色のイコン
己の自由と他人の命とを 秤にかけようとする
決してやむことのない 本能からの呼びかけ
そして
誰かとぶつかり合ったとき 闇の奥から手招きする影
暴力という安易な選択肢への 執拗な誘惑
ビリー
お前はあの世でも
好きにやっているんだろうな
お前の実像を 知る者はいない
同じ時代に 生きた奴等にとってさえ
お前という人間は 量り難い存在だった
ビリー
お前は今も何処かで
支払い続けているのか?
自由への代償を