翳音手
木立 悟





降る夜のなかの樹々
空へ空へ落ちる雨
水が水に
乞いつづけるうた


浜辺と岸辺
正負の境界
ただひとつの無数の鈴
外の耳へ鳴りひびく


羽に落ちる花影を
蝶は気付かず運び去る
光しかない小さな土が
少しのあいだ残される


かわいた雪が
かわいた道に降り
土も水も音も火も
まばたきの途中で動かない


樹が樹を照らし
霧は道に沿う壁を照らす
集めても集めても夜にならない午後を
冬は集めつづけている


何も持たない明るさの下
たくさんの物が影なく散らばる
まぶしすぎて消えかけた原の
さらにさらにむこうの原まで


無数は無数に消えてゆき
他は他へ他は他へ明滅する
土より高いすべての手から
午後はこぼれ落ちてゆく


影の無い地をすぎる雨
眠りかけた目を眠らせ
外の耳へ外の耳へ
ただひとつの鈴を響かせてゆく




























自由詩 翳音手 Copyright 木立 悟 2012-04-19 10:38:41
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