モザイク
古溝真一郎

たぶんみんな知っている
本当は女のアレの中に男のアレが入っていないことや
男のアレに添えた手の裏側に白い液体入りのスポイトが隠されていること
つまり薄いに越したことはないけれども
丸見えを望んでいるわけではない
モザイクは嘘の関係を愛に仕立て上げる道具だと
日がな一日モザイクを編集している俺の同僚が言った

ほとんどだいたいがちゃんと隠されていて
どうしてもこぼれ出てしまうようなところはなんとかしたい
女の唇と男のアレの境界線を モザイクでくっきりと分けていくように
美しいものには光を
美しくないものにはモザイクを
俺も誰も彼も無意識にかけている 毎日毎日
満員電車に吸い込まれて吐き出されて秋葉原の街頭で
盲導犬のための募金をつのっているおかっぱ頭の冴えないおばさんと
ポストカードを配って高い版画を売りつけるきれいなお姉さん
美しいものには光を
美しくないものにはモザイクを
水着でうろうろしている撮影モデルの女の子に群れているオタクの集団には
十把一からげに一番大きなモザイクをかけて俺は進む
秋葉原の裏の 雑居ビルの地下の すえた臭いのするエレベーターを降りた先の
アダルトビデオ専門店へくたびれたスーツを着て俺は営業にいく
こないだ高校を卒業したばかりの新人女優がお尻の穴に何かを入れている映像が店内に流れている
うんこでも食う ヤギとでもやる
欲望がどこまでも突き進んでいく先にもやはりモザイク
イラクにもモザイク
失業率にもモザイク
つまらないお笑い番組にもモザイク
昨日の俺と明日の俺にもモザイク
もちろん 薄いに越したことはないけれども

たしかに
モザイクなしの美しい裏ビデオというものは存在する
俺は素っ裸でベッドのわきに座ったまま それを主張するのだ
モザイクのかからない
アレこそが美しい
モザイクのかからないアレのために二人で
最初のキスをする


自由詩 モザイク Copyright 古溝真一郎 2004-12-05 00:48:29
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