【 ペルソナ 】
泡沫恋歌

一緒に生まれてきたはずなのに
生きていた痕跡が何ひとつ残っていない
私と同じ遺伝子を持つ 方割れかたわ
誰の脳裏にも浮かぶことのない
母が亡くなった 今は……
私だけが知っている 彼女の存在
そのことを誰かに聞いて欲しい

小さい頃には知らなかった
少し大きくなった私に母が告げたこと
「おまえは双子で生まれたのよ
 実は一卵性双子の姉がいたが
 生後五十日で死んでしまった」
……という出生の秘密

――それは紛れもない事実だった

もし生きていれば
自分とまったく同じ顔を持つ人間が
この世にもう一人いたことになる
信じられない なんて不思議なことだろう
いろんな想像を廻らし 独り感慨に耽る

一卵性双子が生まれる確率は
1000の出産に対して4組だそうだ
うちの両親にとって1000分の4の確率は
あまりラッキーではなかった
父は酒呑みで うちの家は貧乏だった
上に兄弟たちがいて 私は末っ子
望まれてデキタ子ではないのだ

母は病院にも行かず 
自宅に産婆を呼んで出産をした
――逆子で双子の赤ん坊
それが私たち姉妹だった
難産の末 双子を産んだ母に
「もし ふたり育てるのが無理なら
 片方だけにお乳をあげなさい」
……産婆がそう言った

そして双子のひとりが
生後五十日でこの世を去った
その時 うちの両親がどう思ったのか
敢えて聞きたくもない!
亡くなった方割れには墓も戒名もない
ただ名前はちゃんと付つけていた
それで彼女の出生届けと死亡届けを
同時に役所に堤出したのだから……

しかし生まれて五十日しか経っていない
赤ん坊の名前にどんな意味がある
果たして 死んだのはどっち方だ?
双子の姉なのか? この私の方なのか?
母ですら よく分かっていないかも知れない
結論として それはどっちでも同じだから
私はいったい誰なんだろう?

不完全なシンメトリー
左右対称の片方を失ったから
私はアンバランスでいびつな人間になった
いつも深層に巣食う この孤独感は
きっと方割れを失ったせいなんだ
元はひとつの遺伝子だった私たち
へその緒は 今でも冥界にいる方割れと
繋がっているように思えてならない

ごめんなさい
私だけが生き残ってしまった!
こんな私は
一卵性双生児のなれの果て




――ペルソナを被って生きていく




自由詩 【 ペルソナ 】 Copyright 泡沫恋歌 2012-04-16 11:37:17
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