儀式
まーつん

仕事から帰って
まあとにかく 手に取ってみる

テレキャスターのネックを掴んで
壁に背中を預けて 床に腰を下ろし
腿の上に ギターを抱いてみる

まずは 調律する
そして 手癖のようになったフレーズを弾く
ブルース・スケールの チョーキングを交えた 短いエッセンス
五弦のAを解放させて しばらくピックで気ままにじゃれる

お次は お行儀のいいメジャー・スケール
右手の指をばらして 五本の弦をバラバラに弾く
乗馬のトロットぐらいの速度で 4/4拍子のリズムを走らせる
親指でベースをはじき 残りのメンツでメロディー・ライン 
トニックのCから サブドミのFへ
三弦のGは放っておいて ドミナントへと駆け登る

これは儀式

会社人間の 仮面をはずして
汗ばんだ素顔を メロディーの風にさらす

猿芝居の笑顔に疲れた 心の筋肉をほぐして
乾きかけた心の空き地に 恵みの雨を降らせる

俺には金もない 女もいない
取り立てて実現したいような 光輝く明日もない

でも 俺の中には
手放したことのない
何かがある

腹の奥に 胸の内に

これは 儀式

それを吐き出し
手の内に見詰めて
また押し戻すための
儀式

…ギターを弾く


自由詩 儀式 Copyright まーつん 2012-04-15 00:32:56
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