運転
salco

オレは傷つきやすいヒトだから
オマエの言う事なんかに耳は貸さない
アスファルトの無限の連なりに出過ぎた
赤いコートの物乞いの過ぎ去る一瞬に
一瞥を投げるのみ
カーラジオの蝿・蚊の軽い唸りや
カーステレオの摂氏6度の音楽を
右から左へ聞き流し、常に
耳の通りの良いのが好きだ
何故なら
オレは傷つきやすいヒトだから
クロムメッキの鋼鉄を着込み
およそ1億2千万の人間社会をブッ飛ばす
およそ8万6千400秒のフルコースを平らげる人生の
およそ15億7774万5千360秒を駆け抜けようというのさ
信号の数とうるせえ規則や警告にイラつきながら
時速60乃至110で

そしてヤツらは歩道を歩き
オレは横断歩道をクリアする
守り続けりゃパトカーは追いつけない
怯え続けりゃジンシン事故とも縁がねえ
何故なら
オレは傷つきやすいヒトだから
自滅の道など選ぶかよ
ああオレはとっても傷つきやすいから
攻撃しねえし攻撃して来るヤツは許さねえ
卵黄よりも柔らかいこの心臓
クォーツ並に正確な自律神経に足掛けるハイカーを
オレは絶対許さねえ
オレの手がそいつのザイルの端をつかもうと
オレはそして助けはしない
関わりあうのは御免だね

憐れみは裏切りに会う
愛は年老い腐って行く
未必は反則切符で責め立てる
どいつもこいつもネコのように爪を立て
イヌのようにいぎたねえ

盲やスターの真似でもないが
オレは傷つきやすいヒトだから
サングラスでささやかに武装して
夜の色で目を覆い
自分だけの太陽を護っている
こっち側から見つめる世界あっちでは
およそ1億2千万の人間達と事象は
生々しさを失いセピアに沈んだ書割り
そしておよそ
このオレが秘宝のようにしまい込む
内面世界には踏み込めぬ距離に退き
オレの安全を保障しながら
同時にオレを
ヤツらの支配者たらしめている


自由詩 運転 Copyright salco 2012-04-14 23:29:38
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