つぐない
ただのみきや
冷たい雨が降ってきた
おれは黒々と木のようで
心臓だけがガス灯
何を照らすでもなく ぼんやりと立っていた
小さな春は震えていた
おれの心臓に寄り添い 冷え切ったからだを温めた
雪どけのうす汚れたアスファルトの上
白い花のよう 素足は濡れて光っていた
見上げると 天の四方はぼろ布のように破れ
地は病み どこもここも戦場のように荒れ果てていた
だが おれもまたそんな人間の一人にすぎなかった
たまたまこうして此処にいただけの
灯は消え 心臓がすっかり水風船に変わったころ
春はまだ震えていた まるで
出てくるのが早すぎた蛍のように 闇の向こうへ漂いながら
おれも蛍なら一緒に行ったものを
ああ だがおれは人間の一人にすぎなかった
たまたまこうして此処にいただけの
冷たい雨に打たれ続ける
一本の黒い 倒木にすぎなかった