【 桜アルバム 】
泡沫恋歌




多くの季節を生きて
わたしは幾度も春を迎えてきた
そして 毎年 
いろんな桜と出会っている

真新しい制服に身を包み
新たな出会いに心躍らせて 
踏みしめるように校庭を歩けば
薄桃色の花びらが
ひらひらと肩に舞い落ちてくる

たぶん初めての恋だった
恋人と呼べる その人と手を繋いで
一緒に見上げた 夜桜は
月に照らされて 白く光っていた
まるで夢見るような桜の樹だった

あなたを亡くした春
近所の公園に咲いた 満開の桜に
足を止め 独り佇んで見惚れていた
こんなきれいな桜を お母さん 
あなたにも見せてあげたかった
――と思った途端に涙腺が緩んだ

人の記憶は日々遠くなっていくけれど
毎年 春になれば
桜は忘れずに 必ず花をつける

百年 二百年……
長い時を生きる桜の樹だから
世の移ろいなど取るに足らぬこと
震災の瓦礫の中でも桜は見事な花を咲かす
まるで宿業のように

その年の感慨に触れて
桜の花びらは様々に変化していく
もう一度 桜が散る前に
そっと掌の中に この想いとともに
閉じ込めてしまおう

今年の桜も
心のアルバムに貼り付けておこう

                  2012/04/08 撮影


自由詩 【 桜アルバム 】 Copyright 泡沫恋歌 2012-04-12 06:22:05
notebook Home 戻る