Mへの 手紙
るるりら
空が俄かに かき曇り
夥しい白波の下で
大口を開けている 黒い うねりに
咀嚼されていた 北への道程で
私が見たものは
岩礁というより 貴女でした
幼い日 貴女の名を 保護者欄に書くとき
あの頃の私は 貴女は保護される人ではないかと
いぶかしく感じていました
ランドセルが板についてきた或る日
躓いた先に 田んぼが あったから
私は 泥に足をとられたのでありません
貴女は 光が わずかな人だったので
盲人の耳の世界を歩んでみようとした
瞑った心で
ぬかるんだのです
こちらでは桜が咲きました
術の結果を待たずに 帰郷してしまい ごめんなさい
眼帯がとれたそうですね
桜が咲くのは またたくまでした
手術成功 おめでとう
貴女のことを
人は 奇跡というでしょう
透徹した あなたの瞳でなら
この桜も きっと ひかりを ふっくらと受け止めて
あざやかに 映ることでしょう
私には 桜が見えなくなりました
喜びの驟雨の しわざか
わたしの目は 海のようです
ありがとうありがとう
水平線のように まっすぐな気持ちで
すぐに迎えにゆきます
ありがとうありがとう