雌豚
プテラノドン

彼女は父親の浮気を知ると
ホテルの駐車場での捜索を始め
理不尽に僕は運転させられた。
彼女はサイドミラーをへし折るとか
ライトを叩き割るとか物騒なことに関心はなく
自分の名前を書いた紙きれを、バンのワイパーに
はさみこめさえすれば気が済んだ。それか自転車の荷台で
空き缶が吸殻でいっぱいになる前に
共通の話題を探せれば。ついに一度も、現場を
見つけることはできなかったが
二人で中に入ることもなかった。
過ちを犯すくらいなら、ハナから出会わなければよかった。
それから幾度となく過ちを繰り返し
語ることよりも触れることで、多くの兆候を
計ることを覚えた。誇りと幼さが同居していたならば、
先にその場を離れたのは僕だ。今となっては
そんなことは言っていられない。

グラス、香水、ドレス―大人になった彼女を
ガタイのいい連中が冷やかしの目で見ている。
暗がりのフロアでひときわ大きな声が挙がる。
「海物語って知ってる?マリンちゃんは?」
昼間に電話を受けて自転車で一人、パチンコ屋で
暴れている祖母を迎えに行った彼女は
どんなに驚いたことだろう?
店員に羽交い絞めにされながらパチンコ台を杖で叩く
祖母の姿を見て、吐き捨てた言葉を耳にして。
遺伝ではなく家族として
受け継がれた言葉を聞いた客たちは
笑い声を上げた。それから彼女は紙きれを
破くかわりに、目の前の吸殻で埋もれた灰皿を
朝まで片し続ける。僕もそう思う。
他に話すことはない。



自由詩 雌豚 Copyright プテラノドン 2012-03-29 15:56:22
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