soft_machine

Gが死んだのは寒風厳しい二月の末だと云う
ひらかれた掌からすべり落ちたグラスにこぼれるコーラの泡と
整列して空虚なペットボトル
黒い海鳴りがうまれた
坊主頭に、北からの光がきっとまぶしかったことだろう

その報せを聞いて受話器をにぎりながら思い描いた
断片としてゆくお前の命を最期に看取る人はいたのだろうかと
突っ伏した背中、顔の擦過傷
が春になれば
お前はまた馬鹿げた冗談が得意の、屈託のない笑顔で眠るはずだった

澄んだ月夜だった
それが不意打ちだった
四月馬鹿のひとことを願いながら
雨揚がりに照る路地裏の残り香は流れ込む薄い板張りの部屋で
お前にいらなくなった未完のワルツがもう一度、踊る
今、お前がどこからか私の中で見ているものを認められず、どうしても
想い穢すことばのわきで行進をはじめる
誰にも行先も告げずお前
ためこんで、吐き出して
殴りつけることも抱きしめることもなく
ただ灰になって
燦と立ち上がり駆けだしたお前
ガラスの瞳のようなお前が最期に見たものを
どうにかして私にくれ

(詩人の死ほど)
(この世に波風を立てぬものはない)
(孤独の裡に沈んだ死こそが確かな手触りを残された人々に語る)

横たわって
水を吸って
吐き出して躯から冷たい
においの最後が東から積まれた風にまた積む

私はそうして砂紋に足跡を消されながら
かみさまというものを愛したお前をなぞり書くため言葉にたよる
死、というものを繋ぎとめることでお前が愛したおとぎ話を
お前が慈しんだのは、限りない幼女たちを





自由詩Copyright soft_machine 2012-03-25 15:25:09
notebook Home 戻る