岩石のような人
beebee





人は87年間考えて、
考えて考えて、
考えて生きていくと、
いったい何に成るのだろう。

心に硬い硬い殻を纏った
岩石にでもなるのだろうか。

人生の長い川を下り、
ぶつかり合いながら、
それでも角(かど)を残して、
頑なに自分を護って
生きて来れただろうか。

そうして、内なる想いは
昇華して結晶して核を作り、
玉髄のそれのように、
瑪瑙(メノウ)や水晶を内に宿している。

そんな岩石に成れたらいいなと思う。

でも自分の父親は
88年生きていたが、
葬儀の席で最後に見た父は、
硬い殻を纏った岩石ではなくて、
桜貝のように見えた。

それは硬い貝殻を纏っているが、
叩くと脆そうだった。
表面には皺のような模様もあって、
長年水に浸かっていた垢もあって、
でも薄紅く暗闇に光っている。
そんな気がした。

もしかすると、
どこか人生の分岐点を過ぎると、
今度は硬い殻が剥がれて行って、
一枚一枚剥がれて行って、
最期には
小さな自我を護る薄い殻だけを残して、
全て剥がれ落ちていって、
薄紅い桜貝になるのかもしれない。

頑固で頑なな父は、
最後には認知症になって、
食事を口に運ぶ他人(ヒト)の手に噛み付く
駄々っ子のようになっていたが、
それでも薄く自分を守る
貝殻を残していたのかもしれない。

貝殻と岩石、
どちらも大事なものを内に抱えて
長い時間を生きて来たんだ。

そっと自分の頭を掻いてみる。
やっぱり頑なな硬い殻があって、
何やら痛痒も感じない。
そろそろ自分も一枚一枚
汚れを落として確かめながら
殻を剥がしてみようかと思う。




 


自由詩 岩石のような人 Copyright beebee 2012-03-18 23:19:31
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