エンベロープフィッシュ
魚屋スイソ

A
テクスチャの、繋ぎ目を剥き出しにした、実態のない部屋の、ディスプレイの顔の、スノーノイズの、手術台の上の、水性マシン、固形深海、投棄されたインスタント酸素チップ、女は処刑装置に閉じ込められ、黒い端子を膣に繋げられ、回転しながら、レーザーを発射し、全身の血を抜く音で絶頂を迎え、レーザー、青いレーザー、一種の生物発光に照らされた、箱型の深海は胎動し、破水し、

D
病棟は、金属の擦れる音と、それに呼応する狂人の声に包まれる、コンソールのダイアルをまわす、映写機がまわる、四つ打ちされた少女、サンプリングされた少女、スクリーン、冷たいパルスの、魚の歯の、

S
ゾンビロイドが開発され、穏やかな順応の後、人間との共存に成功したが、アンドロイドのゾンビなのか、ゾンビのアンドロイドなのかは、まだわかっていない、喰うのは生物ではなく、生物によって保存された生物の媒体、しかしコーデックが無いため、テキストに限られ、これによって詩人は一時の絶滅を免れたが、次第にネットは文字情報で溢れ、文字写真家、文字音楽家、文字映像家が誕生し、蔓延し、プロトタイプの有志は集団でコールドスリープし、奥歯に毒を仕込んだ古典派は、政令指定廃墟でのみ活動を許されている、

R
という、科学小説のページを、一枚ずつ破り、巻き煙草にし、火をつけ、レーザーに絡みつく煙が、夢を見るように、波を描くのを、うねるのを、フロアの影の、プールの底の、ソナー、フィルター、魚の尾、


自由詩 エンベロープフィッシュ Copyright 魚屋スイソ 2012-03-14 03:49:37
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