春の雪
そらの珊瑚
家を出る時に
ちらほらと
降り出した雪が
そう時間をおかないうちに
吹雪いてきた
三月もなかばだというのに
フロントガラスに
積もってゆく雪を
ワイパーでどける
ラジオから
聞き覚えのある曲が流れてくる
レミオロメンは
何度聞いても
覚えられない
ロミオメロンになってしまい
こどもに笑われる
雪の心に咲く六花は
ひたすらに冷たく
美しい氷の花
ひとつとして
同じ形はないらしい
いつかのあの海にも
降っているのだろうか
わたしを忘れないでと
狂ったように舞う雪は
あっけなく
季節が終わっていくことへの
ほんのわずかな
抵抗
家に帰るころには
すっかり雨に変わっていた
春の雪は儚い
人の見る夢もまた、儚い
わたしの心も
いつしかとけて
静かな雨に変わっていた
こうして
人は忘れていくのだろう
そうして
次の季節を受け入れて
生きていくのだろう
大人になったつもりで