ストロボ
まーつん

目覚めても まだ何も感じない
ストロボを焚いたように 視界は真っ白なまま

君は起き上がる ベッドの上で部屋を見回す
昨日見た 夢の欠片を吐き出すと
耳につくのは 壁掛け時計の呟き
締め忘れた窓の わずかな隙間へと
レースのカーテンが 手招きしている
そよ風にあおられて カレンダーがめくれる
先月分が ひとりでに落ちる
白く冷たい 大理石の床に

巻き戻された運命が
君に再考を促す
もう一度 やり直してみなさいと

それは春の訪れ
光と影が反転する
張りつめた空気が ふっと弛む
冬の凍てつく沈黙は 春の饗宴を前にした
長く また束の間の空白

君はあくびを一つ ふわともらして
裸足で 床に着地する
夜の風に磨き上げられた大理石が
鏡のように 凪の日の泉のように
君の姿を映しだす 生まれ変わった人間の姿を

朝もやの向こうで 物憂げに身じろぎする 鉄道の呻き
ベランダの手すりに舞い降りる 一羽の鳩の羽ばたき
窓越しに 君の足元へと打ち寄せてくる 教会の鐘の音

それは春の訪れ

綿雲の枕と 寝返りをうつ太陽
うららかな 雑草のまどろみ

それは 春の訪れ


自由詩 ストロボ Copyright まーつん 2012-03-12 23:24:16
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