石膏像は見せかけの黙祷をする
ただのみきや

この日は特別なのだ
人々は痛みと悲しみを共有し
信じる神を持たない人々も
祈りを捧げずにはいられなかった

この一年
多くのボランティアが汗を流し
沢山の これから が話し合われ
かつてないほどの義捐金が集められた

だが
残された人々からは
静かに血が流れ続け
瓦礫はあの日の記憶とともに
居座り続けていた

今日テレビ各局は
それぞれ特集番組を組んでいた
新聞のテレビ欄を見ながら ふと

 「もっと面白い番組はないのか」

そう思っている自分に気がついた男は
冷静に一年間を振り返ってみた
何もせずに 何もしようともせずに 
何もしたいとも思わずに 
ただ 地震と津波と原発を話題にしては
声高に話していた

この3月11日に人々と共に
痛みを共有できない 
自分はまるで異邦人だった
胸に一本のナイフすら突き立てることもせず
ただ辺境から悲しみの儀式を無表情に見つめている
家族や財産を失った被災民にとって
自分はおそらく人間ではないのだろう
男は思った レプリカの石膏像のように
冷たくて無意味だと 
そして思考の扉を閉ざし ベッドで
二流の小説をめくり始めた



自由詩 石膏像は見せかけの黙祷をする Copyright ただのみきや 2012-03-11 23:03:33
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