3.11
綾瀬たかし

 
【3.11】
 
 
 
 海は静かに波を揺蕩えている。
 
 あの日、多くの大切なものを飲み込んだことさえ
 まるで嘘だったかの様に穏やかに、そして優しく。
 
 笑顔も
 喜びも
 夢も
 希望も
 慰めも
 悲劇も
 苦痛も
 涙も
 絶望も
 叫びも
 
 無差別に、見境無く、すべてを飲み込んでいった
 そんな海を見ると
 忘れられない記憶が嫌でも蘇ってきて
 身も心も震えてしまう。
 
 だけど僕は今日ここに来てその海を見つめている。
 
 底にはまだ君が眠ったままだから
 
 だから僕は今日ここに来なければならなかった。
 
 恐ろしかったろう
 辛かったろう
 不安だったろう
 苦しかったろう
 悔しかったろう
 切なかったろう
 悲しかったろう
 寂しかったろう
 
 ごめんよ、ごめんよ、何もしてあげられなくて。
 
 君のことは決して忘れないよ
 また今日という日にここへ来るよ
 君のことをずっと愛し続けているよ
 また昔のように笑って生きるよ
 
 いつか、きっと、あなたの命を迎えに行くから
 
 それまでは君も僕のことを忘れないで
 
 今はもう静かな海で眠っていて。
 
 
 


自由詩 3.11 Copyright 綾瀬たかし 2012-03-11 22:31:53
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