月蝕
青土よし

不自然な月の夜、
一体何人が「月が綺麗ですね」という語を発したのだろう。
そしてそのうちの一体何人が
そこにI LOVE YOU.の意味を込めたのだろう。

しめやかに行われた月見の席、
彼の居ない空間で、
どうしようもない気持ちのまま、
碌に月を見る事も出来ずに団子を食べた。
コップの中のこの濁った水に月が映ればいいのに。
そうしたらその事で楽しいふうになれるのに。

彼が居なくて良かったのかも知れない。
用意されたI LOVE YOU.を
懐に隠した短剣の様に握り締めて、
どうせ振るう勇気なんて無いのにね。

知られたらどうする?
密かに密かに密かに。
彼は機械的な音律の、
二度と同じ事が繰り返されそうに思えない
永遠のダ・カーポの中で、
観念的反復に貫かれて宇宙の彼方へ行く。
月よりも遠く、地球すら見えない暗闇へ。

孤独になりたい。
孤独そのものになりたい。
孤独そのものになって、
真っ暗な宇宙で涙する彼に寄り添いたい。

永遠なる宇宙を
孤独まみれにしてやりたい。


自由詩 月蝕 Copyright 青土よし 2012-03-11 00:26:58
notebook Home 戻る