捧げられる命
いねむり猫


狭い廊下の両側に
小さく仕切られた病室が 
葡萄の房にようにしがみついている

病室は 使い古された機械たちで埋まり
その中に 忘れられた老人たちが 横たわっている


薄いまぶたで目を覆い 
毒々しいネオンのように 
様々な数値を映し出す 機械たちに助けられながら 
途切れ 途切れの 呼吸を続ける

時折 小走りする 看護婦の後姿
あるいは 医師の翻る 白衣だけが 視界をかすめる

機械たちの奇妙な警告音やブザー 
老人たちの鼓動を数えるつぶやき 
酸素や栄養剤、痛み止めを送り続ける 幾本ものチューブ

 力のない咳き込み 大きなため息 
顔を近づけても 聞こえないほどのかすかな寝息

患者たちが ひしめく病室で 
やっと仕事の手が空いた若い看護婦が 
機械の中に埋まってしまった老婆に声をかける

身動きもしなかった老婆の目が 薄暗い病室で 花のように開いて 
笑顔の返事が帰ってくる

「ああ 今日は遅かったね 夕飯ができているから 早く食べな」

「はい ありがとう いただきますよ」

「ああ ああ たくさんおあがり」


大きな繁華街の 暗い路地の奥 
古くから開業している病院には 
たくさんの命が 
葡萄の房のように
捧げ物のように 
納められている


自由詩 捧げられる命 Copyright いねむり猫 2012-03-07 21:23:09
notebook Home 戻る