白い観覧車
乱太郎

  彼岸花
   山の奥には残雪が
   今日の風はやけに冷たく


ここにひとり

大型客船が停泊している
遠くには高層ホテル

約束の時刻
最後だからと言って
汽笛が鳴った
かもめが持ち去っていったのだろうか
時計の針が動こうともしない

待ち合わせの観覧車の入り口
二十歳そこそこの男女が
はしゃぎながら乗り込んでいく
右回りの観覧車
時計と同じ方向に


空を掴んでみようと思った
初めて

ここにふたり
彼はいつもと同じ笑顔
急かされるように話しまくる
二人で飲んだワイン
二人で歩いた公園
二人で眺めた海の夕焼け
二人で観た映画
二人で聴いたコンサート
二人で過ごした時間
二人で頷き合った会話
二人の出会いの様子
菜の花の一生みたいな

キスしよう
わたしのほうからねだる
それからは

沈黙
だけが落ちて行って


観覧車から降りると
写真撮影のサービス係が並んでいた
写真お願いします
出来上がりを受け取ると
わたしは
ありがとう
といってその場を去った


画像には
わたしのありったけの笑顔が
そして
ひとりだけのわたし


   彼岸花
    山の奥には残雪が
     今日の風はやけに冷たく



自由詩 白い観覧車 Copyright 乱太郎 2012-03-05 13:54:55
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