ひと借り峠
乾 加津也

歩くのはいつも なまの義足
寄木細工のじん帯をか細い骨で震わせながら
足裏に
肌合いのわるい
なじめなさを押しつけても
二つのものが 交互に役割を担うから
どこか
と呼ばれるcell(セル)に移る外来種

あいことばは
方角
なんてロマンティックな定義


つめたい布陣を星屑と呼ぶ日 うしろから
肩にのびるひとかたの手
怖がるな きみの声だ
( 腐っても生めない恥を 宿したままだから )
堪忍な あゝ 堪忍な
うつ伏して 均整のとれる
やわらかな腕をください
そうか

代わりにきみを「ひと借り峠」と名づけてあげる

むくな器 ら
たやすく触手を延ばしたがる 華奢なことば ら
あどけないのど奥に脱脂綿をつめたまま
肛門から銀河を垂れ流す痛み ら

 歩き/象る/足と腕で
 映し/ごもる/目と口で

峠は踏み固まるだろう
下れ
かすみのように
なにも唄わず


自由詩 ひと借り峠 Copyright 乾 加津也 2012-03-01 17:20:40
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