秘すれば花
HAL

ずっと考えつづけてきた
この街にやってきてもう何年になるだろう

親しい知人も隣人もたくさんできたし
顔馴染みの飲み屋もいくつかできた

でも時々その飲み屋であのひとのことを聞く
その噂話でさえもうぼくには辛くなった

そのひとにはもうフィアンセがいる
それをぼくはそのひとから聞いてしまった

だからぼくは自分の身勝手な気持ちだけで
ぼくの心は伝えてはならないと自戒した

確かにこの街で出逢ったひとは
誰もが佳いひとで愉しい時間も過ごせた

でもやはり潮時だと想う
心残りがないかと言えば嘘になるけど

あのひとに別れの挨拶は一切しないで
ぼくはこの街から去ろうと決めた

だけど借り言葉だけど
さよならだけがきっと人生なのだろう

ネフローゼでこの世界から去ってしまった
愛する詩人が続けた言葉は知っているけど

さよならだけが人生ならば
また来る春はなんだろう

その言葉は間違ってないし
ぼくが否定できる分際ではないことは

重々に承知のうえだけの葛藤はあったけど
やはりぼくは去ろうとの決心に辿り着いた

ぼくはぼくの想いを永遠に隠して
新しい街から出直したいと望んでいる

もう移る街は決めてしまった
持っていく荷物も大してない

さようなら お元気で お礼も添えたい
でもそれはきっとあのひとを戸惑わせる

この歳になってからまさか恋に落ちるとは
自分でも想ってもみなかったけれど

秘すれば花との言葉もある
だからやはり何も告げずにぼくはこの街から消える 


自由詩 秘すれば花 Copyright HAL 2012-03-01 13:17:34
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