うるう人
木屋 亞万

一日ごとの神様というと大袈裟だけれど
それぞれの日に担当者が決まっていて
八百人が毎年持ち回りで
一日ずつ見守っている

年に一度の総会で
月ごとにグループを作るのだが
その時ぽつんとひとりだけ
どこにも入れない人ができてしまうことがある

三百六十五人の人間が集まって
いつも綺麗に人数分けできるわけもない
うまくいくことが多いのは
グループの定員があらかじめ決まっているからだ

それでも数年に一人
溢れてしまう人がいるので
人数の一番少ないところに
ぽんと放り込まれることになる

それはいつも人数の少ない二月のグループで
二十八人しかいない二月の一番後ろで
うるう人は他の人達に溶け込みきれずに
ぽつんと浮いてしまっている

その人がうるう人と呼ばれるのは
集会に来たり来なかったりするからだ
毎年三百六十五人ずつ担当しているはずなのに
四年分の人数を合わせると千四百六十一人いる

現実と数字の間にある矛盾が生み出した
隙間を埋めるためのたった一人
グループに入れなかった余計な人
その表情は冷たくそれでいて湿っぽい

その瞳はいつも潤んでいる
瞬きするたびに
見開いていた間に
蒸発した分だけ潤うのだ

いつも少し上を向いていて
口をぐっと結んで
顎に小さないぼいぼが浮かぶ
視線はずっと中空に投げ出されたまま

四年に一度しか来ないけれど
必要だから顔は出さないわけにはいかない
その時にはもううるう人以外の人間関係が
すっかりできあがってしまっているのだ

彼は門を閉ざして
門の中で小さな王になった
独りぼっちのうるう人は
小さな独裁者になるしかない

うるう年に現れる
孤独なうるう人の存在を知る者は
どれくらいいるだろう
誰もその役目を気付かぬままかもしれない

今回も二月二十九日は
他の日から少し浮き立って過ぎていく

狂っているのはうるう人ではなく暦の方だ
うるう人はその狂いを背負い整える
小さなちいさな王様なのだ

神様がいつもそのことを遠くで見ていてくれたなら
すこしは救いになるのだろうか


自由詩 うるう人 Copyright 木屋 亞万 2012-03-01 01:52:30
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