チェーンステッチ
そらの珊瑚

チェーンステッチで
四つ葉のクローバーを
刺繍した

クリイム色のやわらかなフェルトに
ひとさし
ひとさし
鎖をつなぐ

祖母へ
眼鏡入れとして
プレゼントした

祖母は
何ども
ありがとう、と言った
私は
ただ
覚えたてのチェーンステッチを
刺繍したかっただけだとは
ついぞ
言えずじまいだった

長年
愛用してくれて
祖母が亡くなり
棺の中にそれを納めてあげようと
叔父が言い
もはやクリイム色は
古ぼけた土色に変色していたが
使い込まれたものの有り様は
果てしなく
やわらかだった
ひとしきり
泣いたあと
従姉妹達とその夜トランプをした

翌日の葬儀には
嘘のようによく晴れて
伸びすぎたコスモスが
大手を振って砂利道に倒れていた
墓への道々
私たちは白い三角形のついた
はちまきのようなものを頭に巻き
ザルに入れた硬貨をばらまきながら歩いた
それを近所の子らが拾いながらついてきた
私たちは
仮装パレードをしているのだと思った

祖母は
生涯で
四人子供を産んだが
ひとりは早くに亡くし
次に生まれた私の母には
心ゆくまで乳を飲ませようとして
母は四歳頃まで
乳をしゃぶっていたらしい

鎖をつなぐ
幸せな記憶も
そうでない記憶も織り交ぜて
チェーンステッチを刺繍する
今日も
ひとさし
ひとさし
つないで
私はなんとか生きているよ
おばあちゃん



自由詩 チェーンステッチ Copyright そらの珊瑚 2012-02-29 10:18:41
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