僕的不条理
HAL

きみは僕に問う
僕が不条理を否定するようなことを言ったとね

僕は答える
ああ言ったよ
不条理はひとを幸せにしないってね。

じゃあときみは訊ねる
ペケットの“ゴドーを待ちながら”を
僕がどう想うかと

僕の答えは二言
好きだよ 大好きだよ

きみは少し顔色を変えて言う
あんな退屈で不条理劇と称されるものがかい
あれこそ不条理そのものを描いているんじゃないかい
きみが否定したものを描いているんじゃないのかと

僕は少しうんざりしながら説明する
みんな確かにそう言うね
でも僕はそうは想わないよ
確かにシューシュポスに神が為したことは
不条理だと不条理そのものだと想うけど
ウラディミールもエストラゴンも
ゴドーから明日は行けると言われている
ふたりともゴドーとは約束をしている
それが何故不条理なんだいと 今度は僕が問う

でもゴドーは明日にも来なかった
また明日には行けると待ち続けるふたりに
次の日が来るたびにずっと同じ伝言を伝えただけだと
きみの口調が強くなる

僕は静かに言う
でもね ふたりはそれを信じてゴドーを
待ち続けるじゃないか
それはゴドーを信じてると云うことだろう
それが不条理だと多くのひとが言うのを
僕は賛同できかねるんだけどね

そして続ける
何かを信じられることのどこが不条理なんだ
それともきみは何かを信じることが不条理だと言う訣かい

それなら僕がきみに問いたい
きみは何でもいい
待つものもなく生きていけるのかい

神でも愛でも善意でも夢でも何でも構わない
正義でも大義でも真理でも逆理でも構わない
親切でも偽善でも実像でも虚像でも構わない

信じるものなしに待ちわびるものもなしに
生きていくことは不幸じゃないのだろうか
その不幸を背負って生きていくことこそが
きみの言う不条理だと呼ぶんじゃないかい

きみは何かを考えている様に沈黙する
そして僕は話は終ったと想い
きみと同じく黙ったままきみの顔を見つめ続ける

不条理とは神が創ったものであり
理不尽とは人間が創ったものだと
言葉には出さずに心で想いながら



(Thanks To Samuel Beckett)


自由詩 僕的不条理 Copyright HAL 2012-02-29 07:34:57
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