遥かなり神々の座*
天野茂典




   昼下がりの午後
   うとうとしながら私は
   かがみのなかの真っ白な牛の夢をみていた
   牛は顔をこちらに向けて立っていた
   弟の絵にそっくりだった 聖なる牛だった
   あまりにも純白だったので ぼくはそばに
   近づけなかった ぼくはどこに迷い込んだのか
   分からなかった 牛にみられながら
   行き先を失った私は アンジェイ・ワイダの
   フィルムのようにモノクロになっていた
   あまりにも牛が美しすぎたので 私は
   草をさしだすこともできなかった
   インドでは牛は神様である 神聖なのだ
   そうか私はインドにいたのか
   この卑猥に満ちた街のなかで
   昼下がりの午後
   一瞬私はうとうとしながら
   インドを歩いていたのだった
   モノクロからカラーへ
   女装した私が 聖なるガンジスの汚れた水を
   全身に浴びて ヒンドゥー教の祈りを唱えた
   牛は純白のまま ガンジス河を渡っていった
   昼下がりの午後 私は混濁していた                


           *谷 甲州の小説名
           2004・12・01


自由詩 遥かなり神々の座* Copyright 天野茂典 2004-12-01 16:18:11
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