引き出し
そらの珊瑚

かなしい夢をみて
目覚めた朝は
ああ、夢でよかったと思う
けれど
かなしいことが
なくなった訳ではなくて
心の引き出しを開けたら
別のかなしいことが
そこにある

引き出しをちゃんと閉めないから
夢のなかに出てきたのかな
この引き出しには
緩い傾斜がついていて
そろそろと勝手に
開いてしまうくせを持つ

山の中腹
いつも同じところに
ゴールデンリトリバーがいる
雨の日にはずぶぬれで
まるで誰かを待っているかのように
座っている
おまえは捨てられたんだよ
さあ、一緒に山を降りよう
それでなければ
野生に戻り
その牙を武器に
自由に生きていけばいい
もう鎖はないのだから
と話しかけても
待つのが私の仕事ですから
と言うかのように
少し小首をかしげるだけ

捨てられたことに
気づかないそぶりで
信じ切ることが出来る犬は
ほんとは私より幸せなのかもしれないね
でも
私は
かなしくて 
かなしくて
別の引き出しを
またひとつ増やしてしまったよ





自由詩 引き出し Copyright そらの珊瑚 2012-02-28 14:41:47
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