まだ 朝のやさしい光が
いねむり猫


まだ 朝のやさしい光が
町にあふれるまでには 時間がある

薄闇の中で 白い呼気が 
のろしを上げている

白いのろしは まだ街灯が灯る 細い路地を抜け
 古びた木造アパートの鉄階段を駆け上がり
 小さな庭を抜けて 
 無骨なコンクリートの建物へ吸い込まれていく
 

少年の心臓は強く 血流は全身を一瞬で巡る

 良質な筋肉が付き始めた脚を 骨がきしむほど踏みしめ 

 新聞の重みで肩に食い込んだ厚い布地を 
 細くしなやかな鎖骨と筋肉が 跳ね返す

老朽化したアパートの最上階に駆け上がるころ
川沿いの下町に 光が届き始める

 少年の瞳は その景色を写し 瞬きをするだけだ

 小さく気合を入れて
再び 高まり続ける体温を 汗腺と汗が放熱する

迷いなく自分に課した 仕事のために 
ただ精神と肉体に命じる

 呼気のリズムが 時間をつかみ 
 五感を研ぎ澄ました心が 次に踏み出される一歩のたびに震えている 
 
 
この澄みきった時が まれな瞬間であることを 
少年はまだ知らない

 だれにも触れることができない 
 孤高の歌であること

少年には 知る必要もない


自由詩 まだ 朝のやさしい光が Copyright いねむり猫 2012-02-26 10:51:02
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