妊婦と赤い飛行機
草野春心



  正午ぐらいに
  この公園の上空に
  赤い飛行機がやってきて
  幾つかの小石を落としてゆくのを
  その妊婦はじっと待っている
  背板にコカコーラのロゴが
  描かれたベンチに座り
  携帯電話をいじりながら



  昨日の夜、鍋を火にかけたまま
  育児雑誌を捲っていた
  遣る瀬無いソファの弾力に
  重たい体を、ただ沈めて
  もう誰も帰ってこなければいい
  もう何も手に入れたくはない
  そう思いながら妊婦は
  タイマーの音ばかり気にしていた



  九月の風が腹を撫でる
  彼女は思わず携帯を閉じ
  右手でその部分をさすって
  ささやかな温もりをかぶせる
  そのとき赤い飛行機がやってきて
  幾つかの小石を落としていった
  降りそそぐ灰色の一群を眺め、妊婦は
  意外に大きなものだなと思った





自由詩 妊婦と赤い飛行機 Copyright 草野春心 2012-02-09 17:36:34
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