かなしみ
深水遊脚

詩にかなしみは必要ない
詩人がかなしげである必要はない
でも思い込みの枠を外す
鍵を手に入れるには
かなしみが必要なのかもしれない


詩は沈黙

そうである必要はない
誰でも入れる部屋がいい
誰もがほっとできる部屋がいい
でもそんな部屋でも
土足であがり込むことはしない
鍵のついた部屋は
無理に入ったりはしない
見せてもらうように頼めばいい
頼むのだって仕方がある
「見せてもらって当然」といわんばかりの
強引な態度は論外としても
言葉たくみに
部屋の主をいい気持ちにさせて
鍵つきの部屋に案内されても
「見せてもらって当然」が本音である限り
君はまた締め出されることになる
信じて秘密を共有しようとした人は
裏切りには敏感だよ

信じることをやめて
全ての部屋に鍵をかけることもある
土足であがり込む無神経さに驚いて
秘密を明かす人を間違えて
そのたびに悔しい思いを重ねて
簡単には開かない鍵が出来上がる
「見せてもらって当然」はおろか
「見たい」も許してもらえない
そんな時はきっと
沈黙を聴くほかに手はない
同じかなしみを共有していなければ
鍵は開かない
だから心を静かにして
言葉を言葉として受け取り
その奥にあるものを感じ取る
正しい答えは出ないかもしれない
部屋の主にも分からない時だってある
ただ感じ取ろうという心の動きに
詩はあるのかもしれない


鍵がかかっていなくても
部屋の主がやさしくもてなしてくれていても
油断してはいけないよ
「見せてもらって当然」は
そこでもアウト!



(※)作中の詩行「詩は沈黙」については、・・・・・・とある蛙さんの作品「棄てられた女と詩人の関係」のコメント欄において、ブロッコリーマンさんがコメントの中で使われていた言葉です。その意味がコメント欄のやり取りで深められなかったことを個人的に惜しいなと思っていました。この詩は私なりにそれを消化して書いたものです。また服部剛さんの作品「詩人の魂」「ある真夜中のポエジー」で私がコメントをしつつ考えたことも基となっています。


自由詩 かなしみ Copyright 深水遊脚 2012-02-06 11:38:15
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