オカリナ
そらの珊瑚

王国に
オカリナの音が響き
それを合図に
門が開かれました

死者にはもう悲しみはないのです
先に逝ってしまったことも
とりたてて
悲しいことではないのです
それはこの世に生きるもの
全てが通る道だから
順番がきた
そんな風に思っているはずです

風のようなものです
木の葉が揺れて
ああ、今風が吹いているのだな、と思ったら
きっとそこにいるのでしょう
このオカリナから
そんな風たちが奏でる
ハーモニーが生まれてくるのです
かつては彼らも持っていた
悲しみの痕跡である丸い穴々を
出たり入ったりしながら
音を奏でているのです

悲しいのは
生きている人間なのです
あとに置いていかれて
悲しくてしかたがないのは
生きている人間なのです
生きている限り
悲しみに終わりがくることはありません

オカリナはそんな人間のための音色をもつのです

王国にある幾千の糸車がカタカタ揺れます
風の音符が
震えながら
寄り添って
懐かしい人の魂を慰めにくるのです

オカリナにそっと指を添える時
もう二度と会えない人は
すぐそばで
あなたのことを慰めてくれるのです


自由詩 オカリナ Copyright そらの珊瑚 2012-02-05 16:49:17
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