三面鏡
そらの珊瑚

子供の頃
古めかしい三面鏡が
部屋の隅にありました

木目模様の板に貼られた
三枚の鏡はそれぞれに
蝶番によってつながっていて可動式でした

普段は折りたたまれているのだけれど
ぱたりぱたりと
解体すると
三つの世界が現れました

自分の顔は確かにひとつのはずなのに
鏡に映った顔は倍々ゲームのように
増えていきます

鏡に映った顔があります
鏡に映った顔がまた鏡に写し取られ
その顔達が互いにまた見つめ合っています

いくつもの眼が
三面鏡の中にありました

そのひとつひとつは
自分であって
ほんとうの
自分ではありません
人は
鏡に映った自分の顔を
見ることしかできないのです
ほんとうの自分の顔を
外から見ることは永遠に叶わないのです

ほんとうの自分の顔
それは知ってはいけないものだからでしょうか
「サガセ、サガセ」
「サガスナ、サガスナ」
三面鏡を開くたび
無表情な顔の中のひとつだけ
どこかでにやりと笑っているんじゃないだろうかと
そこはかとない
怖さがあったのを
今も覚えているのです







自由詩 三面鏡 Copyright そらの珊瑚 2012-02-03 09:40:09
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