空中庭園
未有花

青い空を白い雲が流れて行く
さらさらと水の流れる音がする

地上から隔絶された空の楽園
ここには僕以外誰もいない
静寂と孤独だけが僕の友達

ささやかに続く平穏な日々に満足していた
あの日君がここに舞い降りて来るまではーー

君は傷付いた翼を抱えるように
この空の庭に降りて来た
あの時君を追い返すこともできたのに
僕はなぜかそれができなかった

蒼褪めた君の顔がとても綺麗で
ずっとその顔を眺めていたいと思ったから
僕はその時初めてこの世界で
一番綺麗な生き物に出会ったような気がしたんだ

飛び立てない君のために
僕はその日から翼の傷の手当を始めた
君はそのお礼のように
毎日僕に綺麗な歌を歌ってくれた

最初のうちは蒼褪めた君の顔を
眺めていられればそれで良かった
だけど君の翼の傷が癒えて来るたびに
募る苛立ちに僕は我慢がならなくなった

君の歌う綺麗な歌も
日を追うごとに耳障りに聞こえて
時折見せる君の笑顔は何て醜いことか
蒼褪めた君の美しい顔はどこへ行ってしまったんだろう

傷が完全に癒えた日
君は当然のように帰ると言った
だけど僕はそれを引き止めた
本当は帰って欲しかったけれど
君がいなくなるのに一抹の寂しさを覚えたから

すると君は嫌らしい笑みを浮かべて
君がひとりぼっちでかわいそうだから
もう少しここにいてやるよと言ったんだ

僕がひとりぼってでかわいそう?
ここは僕だけの楽園なのに?
醜い君なんてもういらない!

そう思った瞬間
僕は迷わず君の首筋に噛み付いていた
空に響く鋭い悲鳴ーーそして静寂

青い空を白い雲が流れて行く
さらさらと水の流れる音がする

地上から隔絶された空の楽園
ここには僕以外誰もいない
静寂と孤独だけが僕の友達

最初からこうすれば良かったんだ
僕は咥えていた骸を地上に投げ捨てた


自由詩 空中庭園 Copyright 未有花 2012-02-03 09:30:15
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