鏡の中の猫
……とある蛙


飼っていた黒猫が突然行方不明
家の玄関の鍵は掛けていた
どこか窓が開いていたのか
窓から見える風景は
空っ風舞う冬景色
街路樹の葉はあらかた落ちてしまい
魚の骨の並木道

ふと見る
鏡台の中に彼女はいた
いつものことかと鏡を覗き込む
鏡の向こうの部屋の隅
ちょこっと座り 前脚揃え
それからこちらへ ニャーと鳴く
よしっと後ろを振り返る
ところがそこに彼女はいない

またまた、鏡を覗き込む
今度はタンスの上の彼女がいる
いつもどおりタンスの上から
こちらを見ながら ごろんと倒れながら、
縁に首をすり付けて
また、こちらを見つめてニュンと鳴く
さぁっと振り返ってタンスを見ても
やはりそこに彼女はいない。

またまた、鏡を覗き込む
直ぐ鏡台脇のテレビの横
画面に泳ぐ魚を覗き込み。
前脚伸ばして 魚を捕ろうと
前脚を振っても空振り空振り
少し小首を傾げながら
じっと自分の肉球を覗き込む
やはりとテレビ台に顔を向けると
そこに彼女はもういない。

またまた、鏡を覗き込む
突然 
鏡の中から彼女が飛び出した
膝の上に両前脚をトンと載せ
ニャーと鳴いて餌を欲しがる
ずっとこの部屋にいたのだろうか
鏡の中にいたのだろうか
何とも奇妙な具合で
そのままおやつの削り節
彼女のボウルに入れたのだが
うたた寝をした憶えはない
なにか不思議な午後だった。


自由詩 鏡の中の猫 Copyright ……とある蛙 2012-02-02 18:31:14
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。