winter loser
木屋 亞万


冬の朝
空気が張り詰めている
これから僕は試される

あたたかい布団から出て
ぬくもりの残る寝間着を脱ぐ

つめたいシャツに腕を通す
小さなボタンが凍りついて
うまく動かない

冷え切ったズボンが太股にあたる
ホックとチャックがひやりと腹に
ベルトのバックルも加勢してくるので
腹を凹ませてしのぐ

体温を奪われるのは
最初の少しの間だけ
がまんだ我慢するのだ

家を出ると
夜のうちに地表に溜まった澄んだ空気が
北風と太陽にかき混ぜられながら
朝の街にきらきらと沈殿している

朝の交差点は
おだやかな陽射しの中で
まぶしく光の透明度を増している

陽光の温もりをすべて拭い去る北風が
僕の頬をびしびしと叩く
これからお前は試されるのだ

キンと寒い空気の中を歩けば歩くほどに
頭の中が澄んでいく
心の臓から足元へ
流れ落ちていく血液は
太股のポンプでぐんと押し返される



(緊張の最中)

記憶は記録を忘れてしまう


そして


太陽が眠り
風がびゅうびゅう吹き荒ぶ中
空気の上澄みがまた地表まで届く
せかいの全てが上澄みになる

一本道の街灯が
退屈な人生のように
ひたすらに並んでいる
突き当りが見えないくらい
ずっと

歩くたびに街灯が揺れる
ほんとうに揺れているのは
僕の頭なのだけれど

暗幕が破れたように
夜空の月から煌々と明かりが漏れている
緊張と情熱が冷めていく
手足を凍てつかせる夜の寒気は
僕の周りから幻想を奪う

終りが近いということを

もう終わったんだということを
絶え間なく僕に意識させる
けれど
頭はぼんやり左右に揺れて
僕を包囲する現実を
体内に取り込めないままでいる

どちらに転んだとしても
終わりは来る

がんばってもがんばらなくても
期限は訪れてしまう

冬は予告通りやってきて
僕のイメージする寒さの甘さをあざ笑うように
身体の芯まで凍えさせて北へと帰って行くのだ

家に帰って
ぬるいシャワーを浴びる

とおい昔
僕に降り注いだ陽射しのような
体温より低温のシャワー

そのぬるま湯でさえ
熱湯のように感じてしまう
凍えきった今の僕の手は
じんじんとぬるま湯の熱を感じて
指先が目の代わりに泣いているような
そんな空しい気分になって
シャワーを止めた後も
わずかに温まった浴室で
髪からしたたる雫を見ていた


自由詩 winter loser Copyright 木屋 亞万 2012-02-01 01:14:43
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