わたしのいろ
草野春心



  私があなたを好きになった日、
  私の心は赤かった
  闇夜に灯った明るい火の輪
  一頭のライオンが駆けてきて
  ひと跳びにくぐり抜けていった
  その先は草原になっていて
  私の心は金色だった
  はてしない夕暮れに染められた
  空の布地に、鳥たちの影が
  ちいさな穴をあけてゆき
  猟銃の乾いた音が
  時折何処かから聞こえてくる
  森のほうには川があって
  私の心は蒼かった
  そして、とても静かだった
  魚たちは歌わないし
  水草も口を噤んでいた
  けれども、私が
  あなたをこの手で殴った日
  川は荒れ狂い
  魚たちは姿を消した
  水草は呼吸を速め
  ライオンは猟師に撃たれてしまった
  それから全ての亡骸を覆うように
  夕暮れの破片が落ちてきて
  私の心は白くなった
  その上にもう何も
  描くことができないくらいに





自由詩 わたしのいろ Copyright 草野春心 2012-01-30 18:47:16
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