本当は「きみ」とも呼びたくないけど、
アルビノ




    たぶん一瞬だということはわかっていた
    それはマスメディアによる知識かもしれないし、本能的なものかもしれない


    きみが憎かった
    理由はいつの日も単純明快
    だから言葉だけでは、ぼくの憎しみも怒りも伝えきれないのだと諦めている

    だけどぼくはきみの家を突きとめて何かしてやろうなんてつもりは、さらさら無かった
    きみのために時間を使いたくなんてないし、きみを脳内に住まわせたくもないからだ
    また、単純明快

    ぼくは平和主義者
    平穏に日々が過ぎれば良い

    筈だったのに。




    小さな町の小さな駅には快速列車も止まらない
    塵っぽい風を舞わせて列車が行く
    目を背けてそれをやり過ごした いつもの日常

    目を開けたらきみがいた
    3年が経っていたけど、わかる
    わかってしまった
    涼しい顔をして線路脇の草なんか眺めてる
    きみだ、きみだ、きみだ、きみだ、きみだ、きみだ、、、、
    はっきりとした目、あつい唇、かたい髪質、
    きみだ。

    ぼくの中の憎しみは必死に息を殺していたのだと今、気付いた
    偽善者の皮の中、平和主義者になれずにもがいてたんだ
    過呼吸になりそうな苦しみと、エクスタシーに似た快感を感じて鳥肌がたった



    コツリ、と硬質の靴音がやけに響いた
    (それに気付いたのはぼくだけだろうけど)
    プラットホームは変わらず騒がしい
    のぼりの快速列車の案内アナウンス
    きみは携帯電話片手に人差し指で左耳を塞いでる

    コツリ、と硬質の靴音がやけに響いた。




    たぶん一瞬だということはわかっていた
    ぼくにとっても、きみにとっても
    これで精算されるのかはわからないけど、
    考える脳みそも余ってなかった


    白く細いぼくの両腕がやけに力強かった
    快速列車は都会を目指して走り抜ける
    日常のそれと同じように




    精算機の前で財布を開ける感覚
    「おつりが来るかもしれない。」
    そう、思った











散文(批評随筆小説等) 本当は「きみ」とも呼びたくないけど、 Copyright アルビノ 2004-11-28 22:47:18
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