狩るが故
一 二

焚き火を消さないのは
君がまだ眠らぬが故

先に眠るのは
君を信用しているが故

山で眠るのは
己の無力さを
知る為が故

彼方に飛び去って行く鳥を見送るは
見知らぬ土地の匂いだけでも
土産にして貰うが故

子連れの獣を狩らぬのは
自らが子供であるが故

猟師が獣を狩るのは
自然や伝統を守るが故

しかし根底にあるのは
自然に
獣に
そして己に
応えるが故
叫ぶ
「俺は無力である」と


獣は凄い
己の身一つで
素早い脚を
逞しい牙を
大樹の枝のような角を
研ぎ澄まされた目を
練り上げる

猟師は違う
殺める術も道具も掟も
人の作ったものでしかない


人は無力である
山に立ち入った途端
自らを取り囲む自然に
容易に飲み込まれてしまう

何故ならば息を潜めて獣を追うとき
山に転がる小さな石になったような錯覚に陥る
己が自然の一部であるが故

何故ならば獣を追うとき
己もまた獣となり
己もまた、何かに追われているが故


自然は俺を臆病に
そして卑怯にしてしまう

俺は獣の目を
見つめることができない
命を殺めた責任を
受け止められないが故

俺は山の物音に
敏感になりすぎてしまった
獣と人を間違えては許されぬが故


あと暫くは
獣の絶命の叫びと
猟師の銃声が
山に谺(こだま)する…
射程は遠く…
音程は哀しく…


自由詩 狩るが故 Copyright 一 二 2012-01-16 00:21:01
notebook Home 戻る