冬の桟橋
日野

冬の桟橋
わたしは車の中で
あなたの後姿を見ていた
象のような冷たいハンドルに
両手を置いて
わたしはあなたを見ていた

ワイパーが
幾度となくわたしに
顔を近づけて
こすれるゴムが
擦り切れていく

雨はすでに降っていた
傘は後部座席で二本
寄り添うように眠っていた
その湖は
ホテルからずいぶんと下ったところにあった

わたしがあなたに声をかければ
あなたはわたしに気づくだろう
そして急いで引き返し ごめんと謝る
そしてあなたの髪から
一滴の雫が落ちたとき
あなたは
緑の壁のアラベスク
瞬く間に埋め尽くされる

あなたのコートの
優しい感触を
去年の今頃 知りました

けれど雨の染み込んだ
今のあなたのコートは
わたしの知らないものとなり
あなたを守る獣になる

願わくば
わたしにではなくていい
手を振ってください
湖のくぼみが消えるまで
あなたの中の
わたしの顔が
千の影になるまで


自由詩 冬の桟橋 Copyright 日野 2012-01-15 08:05:34
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